アルゼンチン ユンガス
ワインの国の珈琲フロンティア——サルタ州亜熱帯雲霧林が育む有機カトゥアイ
マルベックで名高いアルゼンチン北西部・サルタ州のユンガス雲霧林では、カトゥアイ種アラビカが有機・シェードグロウンで栽培される。Café Baritúを筆頭とする先駆者農家が半世紀かけて育てたチョコレートとカラメルの風味は、南米スペシャルティコーヒーの新たな地平を静かに開いている
産地情報
| 産地 | アルゼンチン・サルタ州 ユンガス(オラン地区・バリトゥ国立公園周辺) |
|---|---|
| 品種 | カトゥアイ種(Catuaí) |
| 標高 | 400〜1,200m(ユンガス亜熱帯雲霧林帯) |
| 味わい | ミルクチョコレート・カラメル・熟した果実・芳醇な香り |
品種情報
品種:カトゥアイ(Catuaí)
1950年代にブラジルのカンピーナス農学研究所でムンドノーボ(Mundo Novo)とカトゥーラ(Caturra)を交配して開発されたアラビカ品種。樹高が低くコンパクトで収量が多く、亜熱帯環境への適応力が高い。ムンドノーボの風味の豊かさとカトゥーラの生産効率を兼ね備え、チョコレートやカラメルの甘みと穏やかな酸が特徴。アルゼンチンのユンガス地域はブラジルとの国境に近いミシオネス州からコーヒー栽培の歴史が始まったため、ブラジル由来のカトゥアイが自然と根付いた
- ムンドノーボ×カトゥーラのブラジル育成ハイブリッド品種
- チョコレート・カラメルの甘みと穏やかな酸のバランス
- 亜熱帯環境への高い適応力と安定した収量
- 低樹高で管理しやすく有機・シェードグロウン栽培に最適
アルゼンチン・ユンガスコーヒーとは
アルゼンチン といえばマルベックやフアン・マヌエル・ファンジオ、そしてタンゴ——コーヒーの産地としてイメージする人はほとんどいないだろう。しかし南米大陸の北西部、ボリビアとの国境に近い サルタ州(Salta)・フフイ州(Jujuy)・トゥクマン州(Tucumán) の亜熱帯雲霧林「ユンガス」では、世界でも稀有な環境でアラビカコーヒーが育てられている。
ユンガス(Yungas)とは、アンデス山脈東斜面から低地へ移行する標高 300〜2,500m の雲霧林帯を指す生態系の名称で、ペルー・ボリビア・アルゼンチンにまたがる。アルゼンチン側のユンガスはサルタ州とフフイ州に広がり、温暖で湿度が高く、年間を通じて霧雨が降り注ぐ独特の微気候を持つ。コーヒー栽培に適した降水量(年間 1,500〜2,000mm)と気温(平均 18〜24℃)を備えるこの環境が、小規模農家の挑戦を支えている。
コーヒー栽培の歴史:ミシオネスからユンガスへ
アルゼンチンのコーヒー栽培は 1970〜80 年代、ブラジル・パラグアイと接する ミシオネス州(Misiones) で始まった。亜熱帯の温暖な気候を活かした生産が試みられたが、低地で高温多湿なミシオネスでは品質が上がらず、生産規模も限定的にとどまった。
その後、より条件の良いユンガス地域に焦点が移り始めた。なかでも先駆者となったのが、サルタ州オラン地区に農場を構えるオルティス・バルート(Ortiz Balut)一家。1970 年代に同地でコーヒー栽培を試み、廃園の時期を経て再生させた「Café Baritú」は現在アルゼンチン国内スペシャルティコーヒーのシンボル的存在だ。バリトゥ国立公園に隣接する 30 ヘクタールの農場では、ラパチョ・セイボ・野生のオレンジの木の日陰でカトゥアイ種が育てられており、農薬・化学肥料は一切不使用の有機栽培を貫いている。
現在の生産規模と将来展望
2024 年時点、ユンガス地域のコーヒー栽培面積はサルタ州約 35 ヘクタール、トゥクマン州約 23 ヘクタール。アルゼンチン全体ではミシオネス州を含む生産も存在するが、スペシャルティグレードを志向するユンガス産の生産量は現状まだ小さく、大半は国内消費にとどまる。しかし品質評価は着実に高まっており、将来的にトゥクマン州のユンガスを中心に 最大 8,000 ヘクタール への拡大が模索されている。国内でもスペシャルティコーヒー文化が急速に浸透するブエノスアイレスの市場を中心に需要が高まり、「アルゼンチン産コーヒー」への関心は年々増している。
代表的な産地・生産者
代表的な農園
- Café Baritú(バリトゥ農園) Café Baritú – Ortiz Balut Farm
オルティス・バルート一家が 1970 年代から半世紀以上かけて育てたアルゼンチン産スペシャルティコーヒーの先駆け。30ヘクタールの農場ではラパチョ・セイボ等の在来樹の日陰にカトゥアイ種が育つ。農薬・化学肥料・添加物は一切不使用。チョコレート・カラメル・フルーツの風味と芳醇な香りで知られ、ブエノスアイレスの高級スペシャルティショップへの供給が始まっている
- トゥクマン州ユンガス小農家群 Tucumán Yungas Smallholders
サルタ州に次ぐ約 23 ヘクタールの栽培面積を持つ新興産地。トゥクマン大学等の農業研究機関と連携した品質評価プロジェクトが進行中。将来的に 8,000 ヘクタールへの拡大が構想されており、アルゼンチンコーヒー産業の主要地域として最も注目される
精製方法
ナチュラル(天日乾燥)が主流。 Café Baritúをはじめとするユンガスの農家は、収穫したコーヒーチェリーをそのまま天日で乾燥させるナチュラル精製を採用する。小規模農家で設備投資を最小限に抑えられるだけでなく、チョコレートやカラメルを思わせる豊かな甘みと芳醇な香りがナチュラルプロセスによってより際立つ。在来樹の下で育った有機チェリーの果肉が持つ凝縮した糖分が、乾燥中に豆にゆっくりと浸透する。
精製方法
ナチュラル
Natural / Dry Process
フルーティーで甘みが強い。ベリー系の発酵感とワインのような複雑さ
フレーバーチャート
フレーバーチャート
おすすめの焙煎度
おすすめの焙煎度
シナモン ロースト
ポジショニングマップ
ポジショニングマップ
淹れ方のポイント
- お湯の温度:88〜90℃
- 挽き目:中挽き〜やや粗め
- 抽出方法:ペーパードリップ(甘みと香りをクリーンに引き出す)/フレンチプレス(コクと香りを存分に楽しむ)
- 豆の量:11〜13g / 200ml(11g → カラメルと熟した果実の繊細な甘みが前に出る、13g → チョコレートの濃厚感と香りの奥行きが増す)
基準のエビデンス
- 豆の量:SCA(米スペシャルティコーヒー協会)Golden Cup基準 1:18(200mlで11g)/日本式 1:14〜1:16(200mlで12〜14g)。本ブログは焙煎度別に折衷値を採用
- お湯の温度:SCA基準 90〜96℃(93℃±3)/ナチュラル精製の甘みを活かすため本産地は下限寄りを推奨
- 出典:SCA Coffee Standards / Specialty Coffee Association
参考文献・情報ソース
- La Nacion — Café Baritú, el café argentino que se cultiva en las yungas salteñas
- Insalta — Café Baritú: entre la producción 100% argentina y la expansión del negocio
- Tridge — A coffee made entirely in Argentina? A greenhouse in Tucumán
- CoffeePlusThree — Is Coffee Grown in Argentina?
- Tea & Coffee Trade Journal — Argentinian tea and coffee markets show growth potential
- SCA Coffee Standards — Golden Cup Brewing
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