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硬い豆・柔らかい豆の正体——コーヒー豆の密度と硬さは同じではない

対象地域では標高が高いほど生豆の密度が高いと実測されているが、品種が硬さを決めるという説には根拠が見つからない

挽くときに硬い豆と柔らかい豆があるのは品種のせいなのか、一次資料で検証します。対象地域では標高が高いほど生豆の密度が高いという関連は実測されていますが、密度と硬さは別の性質で、品種が硬さを決めるという説には根拠が見つかりません


この記事の要点

  • インドネシア・ネパールの対象地域では、標高が高い区分ほど生豆の密度も高いという関連が実測研究で確かめられている
  • 密度にも「嵩密度」(すき間を含む豆の集まり全体の密度)と「体積質量密度」(水置換で測る豆そのものの密度)など測定方法の違いがあり、同じ数値として単純比較はできない
  • 「硬さ」にも表面硬度・圧縮時の破断力・強度や靭性、グラインダーで感じる抵抗など複数の尺度があり、ひとつの数値で語れるものではない
  • 産地間で体積質量密度がほぼ同じでも表面硬度には差があるという報告がある(査読を経ていない個人研究)
  • SHBは栽培標高による区分で、個々の豆の硬度を測って付ける等級ではない
  • 品種が豆の硬さを直接決めるという説を裏づける研究は見つからない、銘柄間の破断力の差は焙煎条件が主因の可能性も査読研究で指摘されている
  • 比較した4か国の試料では、挽いたときの粒度分布は産地・精製方法によって差が出なかったと査読研究で報告されている、硬さそのものを直接測った研究ではない

「産地によって、挽くときに硬い豆と柔らかい豆がある。これは品種の特徴なのか」という問いに、一次資料で答えます。結論から言うと、品種が豆の硬さを直接決めると確かめた研究は見つかりません。確かめられているのは、対象地域では標高が高いほど生豆の密度も高いという別の関連です。さらに「密度」にも測定方法によって複数の指標があり、「硬さ」にも複数の測定尺度があります。この2つ、そしてそれぞれの内部の指標を混同したまま語られている場面が業界にも少なくありません。

確かめられていること: 対象地域では標高が高いほど生豆密度も高い

標高と生豆密度の関係を直接測定した研究が2件あります。インドネシアの研究が測定したのは嵩密度(豆同士のすき間も含めた、粒の集まり全体としての密度)です。ネパールの研究は「生豆密度(green bean density)」と表記しており、測定方法は論文に書かれていません。後述するGagné氏の実験は水置換による体積質量密度(豆そのものの密度)を測定しており、同じ「密度」という言葉でも測定方法が異なるため、数値をそのまま比較することはできません。

インドネシア・ガヨ高原のアラビカ種を対象にした研究では、標高1,100〜1,700mの範囲で標高と嵩密度の間に強い正の相関(r=0.88)が確認され、標高と豆のサイズの相関はr=0.62、標高・密度と欠点豆率の相関はそれぞれr=-0.75/-0.58というマイナスの相関でした。

ネパール・シャンジャ郡の研究でも、標高1,400〜1,500m帯の生豆密度は687.5±8.18kg/m³、標高800〜900m帯では619.75±13.72kg/m³と、標高が高い区分ほど密度が明確に高いという結果が報告されています。

メカニズムとしては、標高とコーヒーの味の関係で扱った「低温で成熟がゆっくり進むほど、種子内部の組織が密になる」という説明と一致します。ただしこの2件が示しているのは、それぞれの対象地域における標高と密度の正の関連であり、標高が密度を上げるという普遍的な因果関係として一般化できるものではありません。

ただし注意が必要な点があります。グアテマラ・コスタリカ・ホンジュラスといった中米産地の標高研究を複数確認しましたが、生豆の糖分・カフェイン・クロロゲン酸といった生化学組成やカッピング評価を扱ったものばかりで、「密度」そのものを標高別に実測した査読論文は見つかりませんでした。中米のSHB等級(後述)は、この実測データの薄さとは別の制度上の区分です。

SHB等の格付けは「標高区分の呼称」であり、実測した硬さではない

グアテマラのAnacafé年報(2021–22年、印刷頁53)は理論上の標高帯をSHB 1,350m超、Duro 1,200〜1,350mとしています。同年報は印刷頁55で、標高と等級の対応が栽培管理・微気候・品種・収穫後処理で変わるとも注意しています。別のAnacafé資料ではSHBを4,500ft超(約1,372m超)と表記しています。コスタリカではICAFEの手順書(印刷頁5/19)が、地域区分のSHBを1,200〜1,700m、GHBを1,000〜1,200mと記載しています。具体的な標高の目安や等級表は標高とコーヒーの味の関係にまとめています。これらは各国・各地域の等級区分であり、SHBという呼称は個々の豆の硬さを測った値ではありません。

ここで確認しておきたいのは、この「Hard」という呼称が指しているものです。SHBは栽培標高による区分の呼称であり、ひとつひとつの豆の硬さを測って付けるものではありません。

密度と硬さは同じ性質ではない

ここが今回の調査で最も重要な整理です。「密度が高い=硬い」と直感的にまとめられがちですが、この2つは別の物理量です。加えて「硬さ」という言葉自体にも複数の測定尺度があります。以下で紹介する研究だけでも、ショアD表面硬度(Gagné)、圧縮時の破断力(Nedomová)、焙煎豆の強度・靭性・脆さ(後述のPittia)という異なる尺度を扱っており、さらに読者がグラインダーで挽くときに感じる抵抗感もまた別の指標です。「硬さ」とひとくくりにする前に、どの尺度の話をしているかを区別する必要があります。

天体物理学者のJonathan Gagné氏が個人ブログ「Coffee ad Astra」で行った実験(2019年、査読を経ていない個人研究)では、コロンビア・エチオピア・ブラジル・ケニアなど7種類の生豆を、水を入れたメスシリンダーに沈めて気泡を除去したあとの体積変化から体積質量密度(水置換法による、豆そのものの密度)を算出したところ、産地が違ってもほぼ同じ密度という結果が出ました。これは前節で紹介したインドネシアの嵩密度・ネパールの生豆密度とは異なる指標のため、それらの研究結果と直接比較できるものではありません。ところが同じ豆をショアD硬度計(0〜100の数値で表面の硬さを表す測定器)で測ると、産地間で明確な差があり、なかでもケニア(ウォッシュド)が最も硬いという結果になりました。体積質量密度はほぼ同じなのに、表面の硬さには差がある——この実験は査読を経ていないため断定はできませんが、密度と硬さを同一視できないこと、そして硬さの測定尺度によって見える結果が変わることを示す材料です。

査読を経た研究でも近い結果が出ています。焙煎豆の圧縮試験を行ったチェコ・メンデル大学の研究(Nedomová, Trnka, Stoklasová, Buchar, 2013)は、チェコの商業流通網から仕入れたブラジル・コロンビア・コスタリカ・エチオピア・グアテマラ・ホンジュラス・インドネシア・ケニア・メキシコ・パナマ・パプアニューギニア・ペルー・タンザニアの13か国、計20銘柄の浅煎りアラビカ豆(各ロットからランダムに20粒)を対象に、破断力(潰れるまでにかかる力)を比較しました。結果は銘柄間で破断力に有意な差があり、同時に「破断挙動を示すパラメータと豆の形状・重量の間には有意な関係がない」とも報告しています。大粒だから硬い、重いから硬い、という単純な図式は支持されていません。

ただしこの研究には重要な限定があります。試料は産地・品種・焙煎条件を切り分けて統制したものではなく、商業的に流通している銘柄をそのまま比較した、いわばロット間の差です。論文の結論部分でも、著者ら自身が「銘柄間で見られた豆の特性の差は、主に焙煎条件によるものと考えられる(Main source of the difference in the coffee beans properties is thus probably given by the roasting conditions)」と述べており、産地・品種差の証明として使うことはできません。

品種が豆の硬さを決めるという説には根拠が見つからない

以上を踏まえると、「品種によって豆の硬さが決まる」という説を、品種以外の要因(標高・精製方法・焙煎条件・栽培条件)から切り分けて確かめた研究は見つかりませんでした。産地間で破断力に差があるらしいという報告はあっても、その差が品種由来なのか、標高由来なのか、精製由来なのか、あるいは前述のとおり焙煎条件由来なのかを分離した実験は今回の調査の範囲では確認できていません。

「大粒種(マラゴジッペ・パカマラなど)は硬い」という言い方もよく見かけますが、これも直接の実証研究は見つかりませんでした。前述のメンデル大学の研究がむしろ「豆の形状・重量と破断挙動は無関係」と報告している点は、大粒=硬いという単純化に疑問を投げかけています。

焙煎に伴う密度低下と脆化は同時に進む(焙煎条件由来の変化について)

密度と硬さの関係そのものを直接検証した数少ない査読研究として、Pittia, Dalla Rosa, Lerici(2001)があります。この研究は170℃・200℃・ハイイールド条件という異なる焙煎条件で焙煎した豆を対象に、密度や水分量を含む複数の要因が機械的特性(強度・脆さ)にどう影響するかを評価したものです。焙煎が進むほど、水分の減少・熱分解・組織構造の変化・密度の低下を伴いながら、豆は強度と靭性を失い段階的に脆くなっていくという変化が確認されています。密度単体の効果だけを切り分けた研究ではなく、複数の要因が同時に働いた結果として脆さが生まれる、という整理が正確です。

ここで注意したいのは、この研究が扱っているのは焙煎条件によって生まれる密度変化であって、産地や品種に由来する生豆段階の密度差ではないという点です。焙煎で豆内部の水分・CO2が抜けて多孔質構造ができることが密度低下のメカニズムであることは、豆内部の孔構造の変化を調べたSchenker et al.(2000)の研究とも整合します。焙煎に伴う密度低下と脆化は、水分減少・熱分解・組織変化と同時に進む変化であり、それは主に焙煎という工程が生む変化についての話です。

比較した4試料では、挽いたときの粒度分布に産地・精製による差が見られなかった

最後に、冒頭の問いにあった「挽くとき」に最も近い研究を紹介します。Uman et al.(2016, Scientific Reports)は、グアテマラ・エルサルバドル・タンザニア・エチオピアの4か国から集めた特定の試料を、Mahlkönig EK43で挽いたときの粒度分布(微粉がどれだけ出るか、粒の大きさがどうばらつくか)が変わるのかを比較検証しました。

結果は、比較した4か国の試料では、産地・精製方法による粒度分布の差は検出されなかったというものです。むしろ粒度分布に大きく影響したのは、豆を挽く際の温度でした。常温で挽いた場合と比べ、豆を約−200℃まで冷却してから挽くと、粒の最頻値(モード径)が31%小さくなり、分布も狭くなるという結果が報告されています。

この研究は豆の硬度や密度そのものを測定した研究ではなく、あくまで挽いたあとの粒度分布を比較したものです。硬さを測った研究ではないため、硬さとの関係は判断できません。4か国・特定の試料・特定のグラインダーという条件のもとでの結果であり、今回の調査で見つかった、豆の硬さと挽き目の関係に最も近い査読研究がこの1本です。

まとめ: 挽き目は産地・品種ではなく抽出方法を基準に

ここまでの内容を整理すると、次のようになります。

  • インドネシア・ネパールの対象地域では、標高が高い区分ほど生豆の密度も高いという関連が実測研究で確かめられています(インドネシアは嵩密度、ネパールは測定方法の記載がない「生豆密度」)。ただし中米での直接実測は見つかっていません
  • 密度にも「嵩密度」と「体積質量密度」、硬さにも表面硬度・破断力・強度や靭性など複数の測定方法・尺度があり、単純に同じ数値として比較できません
  • SHB等の等級制度は栽培標高による区分の呼称であり、個々の豆の硬度を測って付ける等級ではありません
  • 産地間で体積質量密度がほぼ同じでも表面硬度に差があるという報告があります(査読なしの個人研究)
  • 品種が豆の硬さを直接決めるという説、大粒種は硬いという説を裏づける研究は見つかりません。銘柄間の破断力の差は焙煎条件が主因の可能性も査読研究で指摘されています
  • 焙煎に伴う密度低下と脆化は、水分減少・熱分解・組織変化と同時に進むことが査読研究で確かめられています(密度だけの効果を分離した研究ではなく、主に焙煎条件由来の話です)
  • 比較した4か国の試料では、挽いたときの粒度分布は産地にも精製方法にも左右されないと査読研究で報告されています。硬さそのものを直接測った研究ではありません

読者が実際に判断できることとして、挽き目を調整する場合は産地や品種の硬さを推測して変える根拠は今のところ見当たりません。コーヒーの挽き目は抽出方法でどう変えればいいかで整理した通り、挽き目を左右する最大の要因は抽出方法(接触時間)であり、この記事の調査結果とも矛盾しません。標高表記やSHBといったラベルは「その豆が育った環境の目安」として読み、豆の硬さそのものを保証する数値ではないと理解しておくと、ラベルの読み方がより正確になります。


目的別に次に読む


訂正(2026-09-27): 標高と生豆密度の関係を調べた2件の研究を「いずれも嵩密度」と記載していましたが、嵩密度と明記しているのはインドネシア(ガヨ高原)の研究のみで、ネパールの研究は「生豆密度(green bean density)」と表記し測定方法を明記していないため、書き分ける形に訂正しました。

訂正(2026-09-28): 2026-09-27の訂正でネパールの研究の指標を「生豆密度(測定方法の記載なし)」に改めましたが、本文の2か所に「インドネシア・ネパールの嵩密度」という記述が残っていたため直しました。

参考文献・情報ソース

よくある質問

産地によって豆の硬さが違うのは品種のせいですか
品種だけが原因だと確かめた研究は見つかりません。対象地域では標高が高いほど生豆の密度が高いという関連は実測研究で確かめられていますが、密度と硬さは別の性質で、硬さにも表面硬度や破断力など複数の尺度があります。産地ごとに破断力に差があるという報告はありますが、産地は品種・標高・精製方法・焙煎条件をまとめて含む変数のため、どの要因が効いているかは切り分けられていません
大粒の豆(マラゴジッペ・パカマラなど)は硬いのですか
大粒だから硬いと確かめた研究は見つかりません。銘柄間で破断力に差があるという査読研究はありますが、その差は豆の形状・重量とは無関係だったと報告されています
豆が硬いと挽き目の仕上がりが変わりますか
グアテマラ・エルサルバドル・タンザニア・エチオピアの4か国の試料を比較した査読研究では、産地・精製方法の違いが挽いたときの粒度分布を左右しなかったと報告されています(硬さそのものを直接測った研究ではありません)。豆の硬さが挽き目の仕上がりを決めるという仮説を積極的に支持する研究は見つかっておらず、挽き目は抽出方法(エスプレッソ・ドリップ・フレンチプレス等)を基準に決めるのが実情に近い判断です

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