Moss Snowstick V-1
1982年・日本最古のスノーサーフ量産モデル――サーフボード構法をそのまま雪山に持ち込んだ原器
田沼進三(Shinzo Tanuma)が1971年に鎌倉で原型を作り、1982年に量産化した V-1。ウレタンフォーム+グラスファイバーのサーフボード構法、スキーエッジ+フィン付きベース、ポインテッドノーズ+ラウンドテールのディレクショナル形状――現代の U-series・PQ-series に直結する DNA の起点

「V-1」は Moss Snowstick が 1982 年に世に出した最初の量産モデル。創業者 田沼進三(Shinzo Tanuma) が 1971 年に自ら製作した原型プロトタイプから数えると、世界で最も長い歴史を持つスノーサーフブランドが放った、最初の市販品にあたる。Gentemstick の Taro Tamai が「スノーサーフの師」として名を挙げるほど、日本のスノーサーフ文化の源流に位置する一枚。
初登場:1982 年
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 初登場年 | 1982 年(Moss Snowstick 最初の量産モデル) |
| 原型プロトタイプ | 1971 年、田沼進三が自作。全長 130cm・幅 25cm、ウレタンフォーム+グラスファイバー構法、スキーエッジ+5mm フィン付きベース。新潟・赤倉温泉スキー場でテスト走行 |
| 先行モデル | 1979 年:Moss Snowstick ブランド名での最初の販売。スキーリリースプレートを転用した世界初の固定式ハードバインディングを採用 |
| モデル名の由来 | 「V」シリーズ第 1 号。後に V-2(1984 年)が続き、U-series へと系譜が続く |
| 設計思想 | サーフボードのシェイプと構法をそのまま雪山に持ち込む――キャンバー・テーパード・ディレクショナルという後年のスノーボード標準語とは別の文脈で設計された |
| 立ち位置 | Jake Burton の Backhill(1977 年)、Tom Sims のスノーボード(同世代)と並ぶ初期市販スノーボードの一角。ただしアプローチはサーフボード職人の視点で一線を画す |
Moss 公式ストーリーページには「1982 年に V-1 をリリースし、後の U-series の前身とした」と明記されている(出典: mosssnowstick.com/pages/story)。
シェイプ
V-1 の形状はサーフボードの輪郭を直接移植した 「ポインテッドノーズ」「ラウンドテール」「ディレクショナル」 の組み合わせ。当時のスキー業界が持つ「スキーの延長線上にあるボード」という発想とは根本的に異なる。
田沼はもともと鎌倉のサーファーとして育ち、高校時代から自らサーフボードをシェイプし、後に「Moss Custom Surfboards」として鎌倉初のサーフショップを開いた人物。サーフボードを作る手でそのまま雪板を作った、という経緯が V-1 の形状に直結している。
1971 年の原型から続く形状の特徴:
- ノーズはポインテッド(サーフボードのノーズに相当)
- テールはラウンド(スワローではなくラウンドピン)
- 全体的にテーパードされたディレクショナル輪郭
- 1982 年版では V-2(1984 年)で導入される「スライダブルバインディング」より前の、固定式プレートバインディング搭載
Moss Snowstick V-1 Competition(1982 年製)

画像:Moss Snowstick V-1 Competition(1982 年製)
出典:Moss Snowstick 公式(V1-to-U4 アーカイブ写真 / mosssnowstick.com)
※ ミントグリーンのトップデッキ、ポインテッドノーズ+ラウンドテールのディレクショナルシルエット。MOSS ロゴと「V-1 COMPETITION」デカールが確認できる
ポインテッドノーズは雪面へのエントリーを鋭くし、ラウンドテールは素早いリリースと取り回しを両立させる。現代の U-series や PQ-series が踏襲しているのも基本的にこの輪郭で、V-1 が 44 年後のモデルに直結していることを示している。
スペック
V-1 の詳細カタログ数値(有効エッジ・サイドカット半径・テーパー量等)は、田沼自身や Moss 公式を含む現時点で確認可能な一次資料には収録されていない。以下は確証可能な情報と、現行 U-series との比較を示す。
| 項目 | V-1(1982 年) | U-series 参考値(現行 U3 2026) |
|---|---|---|
| 全長 | 記録未確認(原型は 130cm) | 1,440mm |
| 有効エッジ | 記録未確認 | 979mm |
| サイドカット半径 | 記録未確認 | 8,650 / 6,000mm(デュアルラジアス) |
| ノーズ幅 | 記録未確認 | 296mm |
| ウエスト幅 | 記録未確認 | 250mm |
| テール幅 | 記録未確認 | 280mm |
| テーパー量 | 記録未確認 | 数値非公開(テーパードアウトライン) |
| セットバック | 記録未確認 | -43mm |
| ベント | 記録未確認 | スノーサーフキャンバー(前足寄りにピーク) |
| フレックス | 記録未確認 | ミディアム(6/10) |
| コア | ウレタンフォーム+グラスファイバー(サーフボード構法) | ポプラ&バンブー |
| 構造 | サーフボード工法(スキーエッジ+フィン付きベース) | 現代的積層構造 |
| ベース | スキー転用ポリエチレン系 | ISO ハイスピードグラファイト |
現行 U-series のデータソース:Moss Snowstick U3 公式。U3 商品説明には「V-1 と H-1 モデルの DNA を受け継ぐ」と明記されている。V-1 のオリジナルスペックを直接確認できるカタログ・資料は現時点で公開情報として存在しない。
年代を通じての系譜
- 1971 年:田沼進三、鎌倉でプロトタイプ製作(130cm・ウレタン+グラスファイバー・5mm フィン)。新潟・赤倉温泉でテスト
- 1979 年:Moss Snowstick ブランド名で最初の販売。世界初の固定式ハードバインディング(スキーリリースプレート転用)
- 1982 年:V-1 として量産化。日本スノーサーフィン協会(Japan Snow Surfing Association)設立。Marui Snow Surfing Grand Prix を主催し、Taro Tamai らを育成
- 1983 年:スタンス幅・角度の調整が可能な世界初のチャンネルマウントシステム開発
- 1984 年:V-2 登場。世界初のスライダブルバインディングシステムを搭載
- 1988 年:スキー構法を取り入れた 1800SL、Freestyle 1610 でアルパイン・フリースタイル両面をカバー
- 2000 年代後半:Moss Snowstick ブランド再起動。小堤直人(Naoto Kotsugai)が PQ(Performance Quad)シリーズを開発
- 現行(2026 年):U-series(U2〜U5)と PQ-series(PQ45〜PQ60 EX)が V-1 の DNA を継承
評価
- サーフボード職人の視点から生まれた設計:田沼がサーフボードのシェイピングで培った手法をそのまま雪板に適用。素材・構法・輪郭のすべてがサーフ由来。「サーフの文法で作った雪板」という出発点が、同時代の他ブランドとの決定的な差異
- スノーサーフという概念の起点:「スノーボード」という言葉が定着する前から「スノーサーフ」という語を使い、雪山をサーフィンの波として読む哲学を体系化した。V-1 はその哲学の最初の量産形
- 44 年後のラインナップへの直結:U-series の商品説明が「V-1 の DNA」と表現するように、現行ラインナップとの輪郭的・構造的連続性が公式に認められている。これは Burton Fish → Fish 3D のような「再解釈」ではなく、ほぼ同じ輪郭が進化しながら続いている
- 後継世代への影響:田沼が 1982 年に設立した日本スノーサーフィン協会の活動を通じ、Taro Tamai が Gentemstick を 1998 年に設立。現代スノーサーフシーンの主要ブランドは多かれ少なかれ Moss / 田沼の系譜に連なる
ライダー
- 田沼進三(Shinzo Tanuma):Moss Snowstick 創業者。鎌倉育ちのサーフボードシェイパーで、若い頃から自らボードをシェイプし、鎌倉初のサーフショップ「Moss Custom Surfboards」を開いた。1971 年にプロトタイプ製作、1982 年に V-1 量産化と日本スノーサーフィン協会設立を同年に行った。The Inertia 誌は「スノーサーフのゴッドファーザー」と表現(出典: The Inertia, 2018)
- 小堤直人(Naoto Kotsugai):サーファー兼スノーサーファー。2000 年に Moss Snowboard とスポンサー契約、2007 年の Moss Snowstick 再起動に参画、2010 年に PQ(Performance Quad)シリーズを開発。2017-18 シーズンの PQ54 が TransWorld SNOWboarding 誌のパウダー部門賞を受賞。田沼の哲学を受け継ぐ現代のシェイパーとして機能している(出典: Moss Snowstick 公式 PQ49 ページ)
- Taro Tamai(玉井太朗):1982 年から田沼の活動に触れ、スノーサーフの思想を吸収。1990 年にニセコへ移住し Gentemstick TT のシェイプを設計、1998 年に Gentemstick を創業。Gentemstick 公式や複数のインタビューで田沼を先駆者として言及している
スノーサーフシーンでの存在感
- 時系列的な優位性:Jake Burton の Backhill は 1977 年、Tom Sims のスノーボードは 1977〜1978 年前後。Moss の 1971 年プロトタイプはこれらと同世代か先行する。量産化は 1979 年(最初の販売)→ 1982 年(V-1)。Burton や Sims と「どちらが先か」の議論は続くが、Moss がサーフボードの文法で独自に同時代に解を出していたことは確か
- 日本のスノーサーフ系譜の幹:Moss → Gentemstick(1998 年)→ 現代のスノーサーフ各ブランドという系譜は、Easy Rider / Snowboarders Journal / Field Mag 等の複数媒体が一致して描く構造
- 比較対象:Gentemstick TT(1998 年、ポインテッドノーズ+ラウンドテール)、Burton Fish(2002 年、スワローテール)、Korua Pencil(2014 年、ディレクショナルシンプル)。これらがスノーサーフ文脈の現代的展開とすれば、V-1 はその DNA の源流にあたる
参考文献
- OUR STORY — Moss Snowstick 公式
- Shinzo Tanuma: Snowsurfing Pioneer — The Inertia
- History of Moss Snowstick — Easy Rider
- Moss Snowstick U3 2026(現行 U-series スペック)— Moss Snowstick 公式
- Moss Snowstick U5 2026(V-1 / H-1 DNA 継承の記述)— Moss Snowstick 公式
- Moss Snowstick PQ49 2026(小堤直人 PQ-series)— Moss Snowstick 公式
- Moss Legacy: Japanese Snowsurfing — The Snowboarders Journal(2018 年)
- Snowboard Cultura: Moss Snowstick — evo
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