コーヒーに使う水は何がよいのか|硬度・アルカリ度とSCAの目安、日本の水道水の基準

見るべきは「硬度」と「アルカリ度」の2つ。研究が示している範囲と、まだ分かっていないことを分けて整理する

コーヒーに使う水は、硬度とアルカリ度の2つで見るのが基本です。SCAの基準は総硬度50〜175ppm・アルカリ度40〜70ppm(炭酸カルシウム換算)・pH7付近とされ、アルカリ度はコーヒーの酸を中和して酸味の感じ方に効くと説明されています。日本の水道の水質基準と、2つの研究が示す範囲も並べます


この記事の要点

  • コーヒーの水は「硬度(カルシウム・マグネシウム)」と「アルカリ度(主に重炭酸。酸を中和する力)」の2つで見る。pHだけでは分からない
  • SCAの家庭用抽出機の基準(SCA-310-2021)は、総硬度50〜175ppm・アルカリ度40〜70ppm(炭酸カルシウム換算)・pH7付近とされる(査読論文による引用で、基準の原文はこの記事では未確認)
  • SCAの機関誌の解説は、中性付近ではpHよりアルカリ度のほうが酸味への影響がはるかに大きく、総硬度は20〜250ppmの範囲では抽出効率への影響が小さいという測定に触れている
  • 2024年の研究では、飲み水程度(100ppm)の塩化カルシウム・塩化マグネシウムを加えても有機酸の量はほとんど変わらなかった。10倍(1000ppm)では測定値が大きくぶれ、2つの測定法で結果が食い違った(塩が測定そのものに影響したと著者は指摘)。味の官能評価はしていない
  • 日本の水道の水質基準は、硬度300mg/L以下・pH5.8〜8.6などの上限で、コーヒーに向くかどうかの基準ではない

結論から書くと、コーヒーに使う水は「硬度」と「アルカリ度」の2つで見るのが基本です。 査読論文が引用するSCA(スペシャルティコーヒー協会)の家庭用抽出機の基準(SCA-310-2021)では、総硬度50〜175ppm・アルカリ度40〜70ppm(いずれも炭酸カルシウム換算)・pH7付近が抽出に適した水とされています。SCAの機関誌に載った解説は、水が中性付近なら、酸味の感じ方にはpHよりもアルカリ度(コーヒーの酸を中和する力)のほうがはるかに大きく効くと説明しています。

一方で、「この銘柄の水がいちばんおいしい」と言える一次資料は見つかりませんでした。研究で分かっているのは、水の成分がコーヒーの成分の量をどう変えるかの一部で、味の好みまで決めるものではありません。この記事では、日本の水道の水質基準(省令の原文)、SCAの機関誌の解説、査読論文3本(うち2本は要旨のみ)を開いて、確かめられたことと、まだ分からないことを分けて並べます。

硬度とアルカリ度は別のもの

水の成分のうち、コーヒーの話でよく出てくるのは次の2つです。

指標 何を表すか コーヒーとの関係(資料が述べている範囲)
総硬度 水に溶けたカルシウムとマグネシウムの量 カルシウム・マグネシウムなどのイオンがコーヒーの成分と結びつき、抽出に関わるとする理論研究がある(Hendonら、2014年、要旨)
アルカリ度 酸を中和する力。主に重炭酸(炭酸水素イオン) コーヒーの酸を中和し、感じる酸味を弱める(SCAの機関誌の解説)
pH 水のいまの酸性・アルカリ性の度合い 中性付近(6〜8)でアルカリ度が20ppm超あれば、酸味への影響はアルカリ度よりはるかに小さい(同上)

SCAの機関誌『25 Magazine』第9号で、スイスのチューリッヒ応用科学大学(ZHAW)のマルコ・ヴェリンガー博士は、pHとアルカリ度の関係を「温度と、蓄えられた熱の量」の関係にたとえています。pHは水がいまどれだけ酸性かを示すだけで、コーヒーの酸をどれだけ打ち消すかはアルカリ度で決まる、という説明です。同じ解説は、感じる酸味は「豆から出た酸」から「水のアルカリ度」を差し引いたものになる、という考え方を示しています。

酸味そのものが何の酸でできているかはコーヒーの酸味は何でできているかで整理しています。

SCAの目安:総硬度50〜175ppm・アルカリ度40〜70ppm

SCAの水の考え方は、2018年の『The SCA Water Quality Handbook』(ヴェリンガー、スムルケ、イェレツィアンの共著)にもまとめられていますが、この記事では書誌しか確認できておらず、下の数値がハンドブックに載っているかは確かめていません。家庭用抽出機の基準 SCA-310-2021 も、PDFを取得できず原文を開けていません。以下の数値は、2024年の査読論文(Bratthällら、Heliyon)の序論が SCA-310-2021 を出典として引用しているものです。

項目 目安(SCA-310-2021、査読論文による引用)
総硬度 50〜175ppm(炭酸カルシウム換算)
アルカリ度 40〜70ppm(炭酸カルシウム換算)
pH 7付近

SCAの機関誌の解説には、これらの目安の背景になる数字もいくつか出てきます。

  • 総硬度と味:総硬度が250ppmを超えると「過抽出のような味」、40ppm未満では「抽出不足のような味」になる傾向が、いくつかの観察として報告されている。ただし、20〜250ppmの範囲では総硬度が全体の抽出効率に与える影響は小さいという測定がある(どの実験かは記事に書かれていません)
  • 器具の保護:水1リットルあたり40mgの保護層がボイラー内にできるようにするには、総硬度もアルカリ度も40ppmを下回らないこと
  • 前提条件:アルカリ度の影響がpHより大きいと言えるのは、pHが中性付近(6〜8)で、アルカリ度がある程度(20ppm超)ある場合
  • 参考:米国の平均的な水道水は、アルカリ度150ppm・総硬度170ppm前後(炭酸カルシウム換算)

米国の平均的な水道水のアルカリ度(150ppm)は、SCAの目安の上限(70ppm)の2倍を超えています。どの水がこの範囲に入るかは、地域や銘柄の実測値を見ないと分かりません。

エスプレッソでは目安が変わる

同じ解説によると、エスプレッソは粉に対する水の量が少ないため、同じ量の酸に対して働くアルカリ度が少なくなります。ビバレッジレシオ(できた飲み物と粉の重さの比。解説は、抽出に使う水と粉の比とは区別するよう提案しています)が1.5のリストレットと15のフィルターコーヒーを比べると、使えるアルカリ度は約10分の1です。そこで解説は、SCAの基準委員会で統一基準の議論が続くなか、ヴェリンガーの研究が示す一案として、エスプレッソではアルカリ度は最大150ppm、総硬度は低い側で20ppmまで目安を広げる考え方を示しています(総硬度の下限20ppmは、味の面だけから決めた値と書かれています)。解説の時点では、統一した基準として決まっていませんでした(その後の扱いはこの記事では確認していません)。

逆に、フィルター用の基準をそのままエスプレッソ用に7.3倍(ビバレッジレシオ2のエスプレッソと14.6のフィルターの比)して当てはめると、ボイラーにひどい水あか(スケール)がつく範囲になってしまう、とも説明されています。抽出器の仕組みの違いはドリップ式・エスプレッソマシン・フレンチプレスは仕組みがどう違うかで整理しています。

2つの研究が示していること

Hendonら(2014年):イオンと成分の結びつきを計算した

英国バース大学のクリストファー・ヘンドンらが Journal of Agricultural and Food Chemistry(第62巻21号、4947〜4950ページ)に発表した研究です。要旨によると、ナトリウム・マグネシウム・カルシウムのイオンがコーヒーの成分と結びつくと考え、5種類の酸、カフェイン、オイゲノール(香りの成分の一つ)とイオンとの結合のエネルギーを、密度汎関数理論という計算の方法で求めました。そのうえで、抽出に使う水の理想的なミネラルの組成を提案しています。

これは計算による研究で、実際に淹れて味を比べた実験ではありません。 また、この記事では要旨しか開けておらず、どのイオンをどれだけ勧めているかという本文の結論は確認できていません。

Bratthällら(2024年):塩を加えて酸の量を測った

ブラットホールらが Heliyon(第10巻5号、e26625)に発表した研究です。ケニア・中南米・ブラジルの豆を使ったアラビカ100%の深煎りのブレンド(フレンチプレス用の粗挽き)を、93℃の水200mLと粉11.00gで5分浸して淹れ、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムを100ppmと1000ppmで加えて、有機酸の量を2つの方法(GC-MSとNMR)で測りました。塩は「淹れる前の水に入れる」場合と「淹れた後のコーヒーに入れる」場合の両方を試しています(各5検体)。

条件 結果(論文の記載)
100ppm(飲み水程度) 有機酸の量の変化は小さいか、ほとんどない。最も大きい減少は、淹れた後に塩化マグネシウムを加えたときのキナ酸で約20%(GC-MS。NMRでは同じ変化は見られなかった)
1000ppm・塩化マグネシウム(GC-MS) クエン酸・リンゴ酸・キナ酸が40〜60%減った
1000ppm・塩化カルシウム(GC-MS) クエン酸が70%、リンゴ酸が25〜40%減った
1000ppm・塩化マグネシウム(NMR) リンゴ酸は40%減ったが、クエン酸は逆に増えた(淹れる前に入れた場合20%、後に入れた場合30〜40%。著者も「意外」としている)
淹れる前と後の比較 多くの場合で同じような結果になった

※ppmは加えた塩(塩化カルシウム・塩化マグネシウム)の濃度で、SCAの「炭酸カルシウム換算のppm」とは直接比べられません。1000ppmでは、塩がNMRのスペクトルに影響するなど測定そのものがぶれ、2つの測定法の結果が大きく食い違いました。著者は、減って見えた分にはイオンと酸が結びついて測定に表れなくなった分が含まれる可能性を挙げています。

著者は、淹れる前に入れても後に入れても結果が似ていたことから、酸の抽出そのものは水の成分にあまり左右されないようだとしています。そのうえで、淹れた後にイオンと酸(クエン酸やリンゴ酸など)が結びつくことで、測定の値や感じる味が変わる可能性を挙げ、官能評価を含むさらなる研究が必要だと書いています。この研究では、人が飲んで味を比べる試験はしていません。 また、使ったのは塩化物の塩で、アルカリ度(重炭酸)は調べていません。

2つの研究をどう読むか

Hendonらの計算は「イオンが成分と結びつくことで抽出が変わりうる」という仮説の土台を示し、Bratthällらの測定は「飲み水程度の濃度なら、少なくとも有機酸の量はほとんど変わらない」という結果でした。この2つは、イオンが抽出に効くかどうかについて向きの異なる結果に見えます(この記事の整理です)。ただし、片方は計算、片方は特定の豆・淹れ方・塩での測定で、比べている条件が違います。どちらの研究からも「この硬度の水がいちばんおいしい」とは言えません。

エスプレッソについては、ナヴァリーニとリヴェッティが2010年に Food Chemistry(第122巻2号、424〜428ページ)で、水とコーヒーの成分の関係を整理した総説を出しています。要旨では、水道の消毒による異臭の除去と、業務用マシンの水あか防止のために水の処理が必要だとしたうえで、アルカリ度と一部の陽イオンがエスプレッソの風味に与える影響を論じています(本文は未確認)。

日本の水道の水質基準は「上限」の決まり

日本の水道水は、水道法に基づく「水質基準に関する省令」(平成15年厚生労働省令第101号)の基準を満たすことになっています。2026年4月1日施行の改正(令和7年環境省令第19号)を反映した省令の表から、水の味に関わりそうな項目を抜き出すと次のとおりです。

項目(省令の表の番号) 基準
ナトリウム及びその化合物(37) ナトリウムの量に関して200mg/L以下
塩化物イオン(39) 200mg/L以下
カルシウム、マグネシウム等(硬度)(40) 300mg/L以下
蒸発残留物(41) 500mg/L以下
pH値(48) 5.8以上8.6以下
味(49)・臭気(50) 異常でないこと

ここで注意したいのは、これらは飲み水として満たすべき上限・範囲であって、コーヒーに向く水の目安ではないことです。また、アルカリ度は基準の項目に入っていません。省令の表には硬度の換算の仕方が書かれておらず、SCAの「炭酸カルシウム換算のppm」とは換算の仕方が違う可能性があるため、硬度の数字だけを並べて比べることはしません。自分の住む地域の水道水の硬度が実際にいくつかは、この記事では調べていません。

確認できたこと・できなかったこと

内容 状態 資料
日本の水道の硬度300mg/L以下・pH5.8〜8.6などの基準 確認済み(省令の原文) 水質基準に関する省令(e-Gov法令検索)
SCAの目安(総硬度50〜175ppm・アルカリ度40〜70ppm・pH7付近) 二次引用(基準の原文は未確認) Bratthällら(2024)の序論が SCA-310-2021 を引用
アルカリ度が酸を中和し、中性付近ではpHより酸味に大きく効くという説明 確認済み(SCAの機関誌の解説) 『25 Magazine』第9号
総硬度20〜250ppmでは抽出効率への影響が小さいという測定 解説の記述は確認済み。もとの実験は未確認 同上
エスプレッソの目安(アルカリ度最大150ppm・総硬度20ppmまで) 解説の記述は確認済み(基準委員会で議論が続くなか、ヴェリンガーの研究が示した一案。解説の時点では基準として未確定) 同上
飲み水程度(100ppm)の塩化カルシウム・塩化マグネシウムでは有機酸の量の変化が小さい 確認済み(1種類の豆・1つの淹れ方での結果。1000ppmの値は測定法の影響を受けている) Bratthällら(2024)
Hendonらの推奨するミネラルの具体的な組成 未確認(要旨のみ) Hendonら(2014)
特定のミネラルウォーターの銘柄がコーヒーに向くかどうか 未確認(一次資料なし) —
住んでいる地域の水道水の実際の硬度・アルカリ度 この記事では扱わない —

まとめ

コーヒーに使う水は、硬度とアルカリ度の2つで見ます。査読論文が引用するSCAの基準では、総硬度50〜175ppm・アルカリ度40〜70ppm(炭酸カルシウム換算)・pH7付近が目安です。SCAの機関誌の解説は、中性付近の水では酸味の感じ方にアルカリ度が大きく効き、総硬度は20〜250ppmの範囲なら抽出効率への影響が小さいという測定に触れています。2024年の研究でも、飲み水程度の塩化カルシウム・塩化マグネシウムでは有機酸の量はほとんど変わりませんでした。日本の水道の水質基準は飲み水としての上限で、コーヒー向けの目安ではありません。水を変えて味が変わったと感じたら、硬度だけでなくアルカリ度の違いも疑ってみる、というのが資料から言える範囲です。湯の温度はコーヒーを淹れる湯温は何度がベストか、苦味と酸味のバランスの崩れはコーヒーが苦くなる原因と酸っぱくなる原因は何が違うのかで整理しています。


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よくある質問

コーヒーには軟水と硬水のどちらがよいですか
「軟水か硬水か」の二択では決まりません。SCAの家庭用抽出機の基準とされる値は、総硬度50〜175ppm(炭酸カルシウム換算)という幅のある範囲で、同時にアルカリ度40〜70ppmとpH7付近が挙げられています(査読論文による引用)。SCAの機関誌の解説は、酸味の感じ方にはpHよりアルカリ度が大きく効くとし、総硬度が抽出に与える影響ははっきりしないとしています。硬度とアルカリ度の両方を見る必要があります
硬度が高い水で淹れると、コーヒーの味は変わりますか
SCAの機関誌の解説によると、総硬度が250ppm(炭酸カルシウム換算)を超えると「過抽出のような味」、40ppm未満では「抽出不足のような味」になる傾向が、いくつかの観察として報告されています。一方で、20〜250ppmの範囲では総硬度が抽出効率に与える影響は小さいという測定にも触れており、硬度そのものが抽出量を大きく変えるとは言い切れません
pHが7の水なら、コーヒーに向いていますか
pHだけでは判断できません。SCAの機関誌の解説は、pHは水の「いまの状態」を示すだけで、コーヒーの酸をどれだけ中和するかはアルカリ度で決まると説明しています。pHが同じ7でも、アルカリ度が高い水はコーヒーの酸を多く中和します
エスプレッソとドリップで、水の目安は違いますか
SCAの機関誌の解説によると違います。エスプレッソは粉に対する水の量が少ないため、同じ量の酸に対して使えるアルカリ度がドリップより少なくなります(ビバレッジレシオ=できた飲み物と粉の重さの比が1.5のリストレットと15のフィルターを比べると、最大で約10分の1)。そのため、SCAの基準委員会で統一基準の議論が続くなか、解説(ヴェリンガーの研究)が示した一案として、エスプレッソではアルカリ度は最大150ppm、総硬度は低い側で20ppm(炭酸カルシウム換算)まで目安を広げる考え方があります。解説の時点では、統一した基準として決まっていませんでした

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