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コーヒーのペーパーフィルター、白と茶色どちらがいいか

1987年のEPA試算は当時の塩素漂白紙の話——今の白いフィルターとは前提が違う、漂白方法の転換を一次資料で整理

コーヒーのペーパーフィルター、白(漂白)と茶色(無漂白)はどちらがいいかを一次資料で検証。1987年のEPA試算が今の白いフィルターに当てはまらない理由、漂白方法の転換、味・環境をめぐる論点を整理


この記事の要点

  • 1987年にEPAへ提出された試算では、調べた紙製品7種のうちコーヒーフィルターだけが、報告書の目安(10万分の1)を上回る1万分の1(1.0×10⁻⁴)という結果だった(目安を100万分の1にすると、ほかに4製品も上回る)
  • この試算は当時主流だった塩素ガス(元素状塩素)漂白の紙を前提にしており、塩素ガスを使わない現在の漂白方式(酸素漂白・二酸化塩素を使うECF)の紙には同じ数値を当てはめられない
  • Melittaは公式FAQ(2015年時点の記録)で、白いフィルターを酸素で漂白し塩素は使っていない、茶色いフィルターは漂白していないと説明している
  • 一般に「無漂白の方が環境にやさしい」とされるが、確認できたのは漂白方式どうし(ECFとTCF)の比較だけで、白と茶色の環境面の差を示す一次資料は見つからなかった
  • 白と茶色で味が変わるかどうかは、独立した測定データが見つからず判断を保留する

結論から言うと、今の白い(漂白)コーヒーフィルターに健康上のリスクがあるという根拠は見つかりませんでした。「白いフィルターは危険」という話のもとになっているのは、1987年に米国EPA(環境保護庁)へ提出された試算です。これは塩素ガス漂白(元素状塩素漂白)が主流だった当時の紙を前提にしており、塩素ガスを使わない現在の漂白方式(酸素漂白や、二酸化塩素を使うECF)の紙には同じ数値を当てはめられません。ただし、今の白いフィルターを直接測った残留量のデータは見つからず、安全が数値で確かめられたわけでもありません。また、一般に「茶色(無漂白)の方が環境にやさしい」とされますが、白と茶色の環境面の差を示す一次資料は見つかりませんでした。味の違いは、独立した測定データが見つからず判断を保留します。この記事では、確認できたことと確認できなかったことを分けて整理します。

白と茶色のペーパーフィルターについて、健康・漂白方法・環境・味の4論点で一次資料から確認できたことを整理した図
4つの論点のうち、一次資料で一部でも確かめられたのは健康と漂白方法の2つ出典:CPI ファクトシート/Melitta公式FAQ(2015年アーカイブ)ほか

1987年、EPA試算でコーヒーフィルターだけが突出した理由

米国EPA(環境保護庁)の委託を受けたコンサルティング会社Arthur D. Little社は1987年6月、漂白クラフト紙を使う7種類の消費者製品(紙皿・紙おむつ・生理用タンポン・紙ナプキン・紙タオル・コーヒーフィルター・コピー用紙)について、ダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)への生涯曝露による発がんリスクを試算した報告書をEPAの水質規制基準局へ提出しました。

結果は製品ごとに大きな幅があり、生涯増加発がんリスクは紙ナプキンの約67億分の1(1.5×10⁻¹⁰)からコーヒーフィルターの1万分の1(1.0×10⁻⁴)まで広がっています。報告書は、慣例的な目安である10万分の1(10⁻⁵)を上回ったのはコーヒーフィルターだけだとし、目安を100万分の1(10⁻⁶)にすると、ほかに紙皿・紙おむつ・生理用タンポン・紙タオルの4製品も含まれると書いています。コーヒーフィルターが突出したのは、報告書が置いた曝露の仮定によるものです。報告書は、5分間の使用で湯がフィルター全体に触れて抽出液として回収され、フィルター中のダイオキシン63pgのうち62pg(約98%)が摂取されうると仮定しました。曝露の経路と仮定は製品ごとに異なり(紙おむつは皮膚への接触、紙タオルはベーコンの油を介した摂取など)、湯で紙全体を抽出するコーヒーフィルターは、摂取されうる量が最も大きく見積もられました。

ただし、報告書自身が「この試算は仮定に強く依存する予備的な数値であり、不確実性の大きさを見積もるだけの情報は不足している」と明記しています。そしてこの試算は、塩素系の薬剤による漂白が主流だった1987年当時の紙を前提にしています(報告書も、漂白には塩素化合物が使われるのが一般的と説明しています)。査読論文では、Wiberg et al.(1989)が消費者向け紙製品のダイオキシン類(PCDD/PCDF)を分析した論文を、Beck et al.(1990)がコーヒーフィルター紙を対象にした検査機関間の相互比較試験の論文を、それぞれChemosphere誌に発表しています。いずれも1989〜90年の当時の紙製品が対象ですが、今回は本文を確認できておらず、試料の漂白方式や測定値はこの記事では扱いません。

1987年のEPA委託試算から現在のECF漂白までの年表、塩素ガス漂白の時代と切り替え後を色分け
「白いフィルターは危険」という説の根拠は、塩素ガス漂白が主流だった時代の資料出典:Arthur D. Little(1987)EPA委託報告書

今の白いフィルターは何で漂白されているか

英国製紙工業連盟(CPI)の資料によると、紙パルプの漂白は1990年代初めまで塩素ガス(元素状塩素)が主流でしたが、ダイオキシン類の排出が問題となり、塩素ガスを使わない方式へ切り替わりました。CPIは、現在は二酸化塩素を使うECF方式が主流としています。世界全体での割合を示す一次資料は今回確認できていませんが、米国については、EPA(環境保護庁)の資料で、1990年頃には化学パルプ工場で塩素ガスが広く使われていたのに対し、2001年にはECFが約95%を占めていたとされています。コーヒーフィルターについては、ドイツのMelitta社が公式FAQ(2015年時点のアーカイブで確認)で、白いコーヒーフィルターについて「環境に配慮して酸素で漂白しており、塩素は使っていない。茶色いフィルターペーパーは漂白していない」と説明しています。同社は現行の英国向け公式FAQでも酸素漂白・塩素不使用と説明しており、2014年の年次報告書にも酸素漂白の紙を「100% chlorine-free」とする記載があります。同社の製品ページ(2022年時点のアーカイブで確認)でも、Pour Over用の白いフィルターは「酸素のみで漂白しているため、ろ過の際に嫌な後味が出ない」と説明されています。

日本国内でもHario・Kalitaの白いフィルターは「酸素漂白」という製品名で販売されています。ただし、メーカー自身の技術ページで漂白方法を明記した記述までは、今回の調査では確認できませんでした(販売店・輸入代理店の商品説明レベルでの一致にとどまります)。製紙業界の資料ではECF方式が主流とされるため、「白いフィルターはすべて酸素漂白」とまでは言えません。

今の白いフィルターにも健康リスクがあるのか

CPIの資料は、塩素ガスによる従来の漂白を「ダイオキシン類・フラン類を多く生じる方法」と説明しています。これに対し、TCF(Totally Chlorine Free)漂白は「酸素による脱リグニン処理と、過酸化水素またはオゾンによる漂白」で、塩素系の薬剤を使いません。ECF(Elemental Chlorine Free)漂白は塩素ガスの代わりに二酸化塩素を使う方式で、米国では最良技術(BAT)とされています。

一方で、塩素ガス漂白から切り替わった後の紙(酸素漂白・ECFとも)を対象に、コーヒーフィルターのダイオキシン残留量を直接測定した査読論文は、今回の調査では見つかりませんでした。確認できたのは、1987年のEPA試算のリスク値は切り替え前の紙が前提で、現行品にそのまま当てはめられない、というところまでです。今の白いフィルターが安全かどうかを数値で確かめた資料は見つかっておらず、この点は未確認として明記しておきます。

環境面: 「茶色(無漂白)の方がエコ」は本当か

漂白方法をめぐるもう一つの通説が「白は漂白する分、環境負荷が高い」というものです。この点を確かめられる一次資料は、今回は見つかりませんでした。見つかったのは、漂白方式どうしを比べた業界団体の資料です。

英国製紙工業連盟(CPI)のファクトシートは、紙を白くするための2つの主要な漂白方式であるECF(二酸化塩素を使う方式)とTCF(酸素・過酸化水素・オゾンを使う方式)について、「総じて、TCFとECFの排水は環境面で区別できないと広く認められている」と明記しています。CPIは欧州委員会の産業排出BREF文書(Pulp & Paper BREF 2014年版)を引用し、「現代のECFとTCFのどちらが環境面で優れているかという問いに絞るのは狭すぎ、排水処理設備を含む工場の運用全体も重要な要素」という趣旨を紹介しています。同資料によると、米国ではECF、欧州ではECF・TCF双方が最良技術(BAT)とされています。CPIは製紙業界の団体である点にも留意が必要です。

ここで注意が必要なのは、この比較は「紙を白くする2つの方式のどちらがいいか」という話であり、「そもそも漂白しない茶色いフィルターとの比較」ではない点です。茶色いフィルターは漂白の工程自体を経ていないため、その工程分の薬剤使用は生じません。ただし、それが排水全体・製造工程全体でどれだけの差になるかを定量した一次資料は、今回は見つかりませんでした。「無漂白の方がエコ」と単純化することも、「差はない」と単純化することも、確認できた資料の範囲を超えています。

味は変わるのか

漂白方法によって味が変わるかどうかは、査読研究や独立した測定データが見つからず、判断を保留します。ロースターやバリスタ教育系のブログでは「無漂白フィルターは紙のにおいが出やすく、抽出前の湯通し(リンス)で軽減できる」という実務上の知見が共有されていますが、定量的に検証した一次資料ではありません。Melitta公式は酸素漂白について「ろ過の際に嫌な後味が出ない」と説明していますが、これは漂白方法そのものの特徴を述べたもので、白と茶色を直接比較した記述ではありません。フィルターの厚みや素材そのものが抽出液に与える影響(オイル分の吸着量など)は、ドリッパーの構造によっても変わります。詳しくはV60・カリタウェーブ・ケメックスは味にどんな違いが出るかで扱っています。そもそもペーパーフィルターが微粉・油分の多くを捕捉する仕組み自体は、紙の色(白/茶色)ではなく素材が金属メッシュかペーパーかという抽出器具側の違いによるところが大きく、この点はコーヒーのコク(ボディ)の正体で扱っています。

読者が次にできること

健康面では、確認できた範囲で今の白いフィルターにリスクがあるという根拠は見つかっていません。塩素ガス漂白は1990年代に主流から外れ、Melittaの白いフィルターは公式FAQ(2015年時点の記録)で酸素漂白と説明されています。気になる場合は、パッケージや公式サイトで漂白方法(酸素漂白など)の表記を確かめて選ぶのが確実です。ペーパーフィルターと金属フィルター・浸漬式など抽出器具ごとの違いはドリップ式・エスプレッソマシン・フレンチプレスは仕組みがどう違うかで整理しています。味の面で紙のにおいを避けたい場合は、抽出前にフィルターへ湯を通す方法が実務でよく勧められています(効果を測定した一次資料は見つかっていません)。環境面を主な理由に選ぶ場合は、白と茶色の差を裏づける一次資料は見つかっていないため、他の判断材料(認証・生産地の情報など)と合わせて考えるのが確実です。

訂正(2026-09-27): 漂白方式の現状について「ECF方式が世界の漂白パルプ生産の80%超を占める」と記載していましたが、この割合を世界全体の数値として裏づける一次資料は確認できませんでした。確認できたのは米国EPA(環境保護庁)の資料にある、米国の化学パルプ工場で2001年にECFが約95%だったという記述です。世界全体の割合の記述を削除し、米国の数値として出典つきで改めました。記事中の年表の図も同じく改めました。

訂正(2026-09-28): 紙パルプ全体でECF方式が「主流」と断定していましたが、世界全体の割合を示す一次資料は確認できていないため、英国製紙工業連盟(CPI)の説明と米国の割合(2001年に約95%)によることを明記しました。


よくある質問

今の白い(漂白)コーヒーフィルターに健康上のリスクはありますか
確認できた一次資料の範囲では、今の白いフィルターに健康リスクがあるという根拠は見つかりませんでした。1987年にEPAへ提出された試算は、塩素ガス漂白が主流だった当時の紙を前提にしており、その値を今の白いフィルターにそのまま当てはめることはできません。Melittaは公式FAQ(2015年時点の記録)で白いフィルターを塩素を使わず酸素で漂白していると説明しています。ただし、切り替え後の紙を対象にした残留量の測定は今回の調査では見つからず、今の白いフィルターが安全だと数値で確かめられたわけではありません。
1987年のEPA試算とはどんな内容ですか
米国EPA(環境保護庁)の委託を受けたコンサルティング会社Arthur D. Little社が、紙皿・紙おむつ・生理用タンポン・紙ナプキン・紙タオル・コーヒーフィルター・コピー用紙という7種類の漂白クラフト紙製品について、ダイオキシンへの生涯曝露による発がんリスクを試算した報告書です。結果は紙ナプキンの約67億分の1(1.5×10⁻¹⁰)からコーヒーフィルターの1万分の1(1.0×10⁻⁴)まで幅があり、報告書が慣例的な目安とした10万分の1(10⁻⁵)を上回ったのは、7製品のうちコーヒーフィルターだけでした。目安を100万分の1(10⁻⁶)にすると、紙皿・紙おむつ・生理用タンポン・紙タオルの4製品も上回ります。報告書自体が、この試算は仮定に強く依存する予備的な数値であると明記しています。
白いフィルターは今も塩素で漂白されているのですか
Melittaについては違います。同社の公式FAQ(2015年時点の記録)は、白いコーヒーフィルターを環境に配慮した酸素漂白で仕上げており塩素は使っていない、茶色いフィルターは漂白していないと説明しています。日本国内メーカーの販売ページでも「酸素漂白」という製品名がよく使われていますが、メーカー自身の技術ページでの明記までは今回確認できていません。製紙業界の資料では二酸化塩素を使うECF方式が主流とされ(米国では2001年に約95%)、すべての白いフィルターが酸素漂白とは言えません。
茶色(無漂白)の方が環境にやさしいのですか
一般にはそうされますが、確かめられる一次資料は見つかりませんでした。英国製紙工業連盟(CPI、業界団体)の資料は、紙を白くする2つの漂白方式であるECF(二酸化塩素)とTCF(酸素・過酸化水素)について「排水は環境面で区別できない」とし、欧州委員会のBREF文書(2014年版)を引用して両方とも最良技術(BAT)とされていると説明しています。一方、茶色いフィルターはそもそも漂白の工程を経ておらず、この比較とは前提が異なります。「無漂白の方がエコ」とも「差はない」とも、今回確認した資料の範囲では言い切れません。
白と茶色で味は変わりますか、どちらを選べばいいですか
査読研究や独立した測定データは見つからず、判断を保留します。実務では「無漂白は紙のにおいが出やすく、湯通し(リンス)で軽減できる」とする声がある一方、メーカー側は漂白方法による質感の違いを明言していません。健康面では、Melittaの白いフィルターは公式FAQで酸素漂白と説明されており、1980年代の試算の前提とは異なります。味が気になる場合は、抽出前に湯通しをしたうえで両方を試し、自分の淹れ方での違いを確かめるのが確実です。

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