ベトナム ソンラ

荒れ山の緑化事業から生まれたアラビカ大産地

1994年に貧困対策の緑化事業として始まったベトナム北西部ソンラ省のアラビカ栽培は、約2万haの規模に育ちラムドン省と並ぶ二大産地となった、ビッチャオ協同組合のハニープロセスが欧州・日本市場を切り開いた事例を紹介


この記事の要点

  • 産地はベトナム北西部ソンラ省、マイソン郡・トゥアンチャウ郡・ソンラ市フアラ地区が中心(標高700〜1,200m)
  • 1994年、荒れ山の緑化と貧困対策を目的とした政府の農業振興事業としてアラビカ栽培が始まった
  • 現在の栽培面積は約2万haに達し、ラムドン省(ダラット)と並ぶベトナム二大アラビカ産地の一つに成長
  • 主力品種はさび病耐性のカティモール、近年はTHA1・TN1・TN7等の高収量品種への転換も進む
  • ビッチャオ協同組合はハニープロセスを開発し欧州・日本・米国など20カ国へ輸出、国家OCOP五つ星認証を取得

産地情報

産地ベトナム・ソンラ省(マイソン郡・トゥアンチャウ郡・ソンラ市フアラ地区)
品種アラビカ種(カティモール中心、THA1・TN1・TN7等の高収量品種へ転換進行中)
標高700〜1,200m
味わいカラメル・はちみつ・ブラウンシュガーの甘み、バランスの良い酸味、しっかりしたボディ

品種情報

アラビカ種Coffea arabica最高品質

品種:カティモール種(一部THA1・TN1・TN7等の高収量品種)

カティモールはさび病耐性を持つカトゥーラとチモール・ハイブリッドの交配種で、1980年代にベトナムへ導入されて以降、北西部ソンラ省のアラビカ栽培の主力品種となった。近年は収量が20〜30%高いとされるTHA1など新品種への転換も農業普及事業を通じて進められている。ソンラのアラビカは1994年、荒れた山地の緑化と貧困対策を目的とした政府の農業振興事業としてフアラ地区で始まったのが起源で、コーヒー以前は換金作物に乏しい地域だった

  • 1994年、緑化・貧困対策の政府事業としてフアラ地区で栽培開始
  • 現在の栽培面積約2万haでラムドン省と並ぶベトナム二大アラビカ産地
  • 主力カティモール種、高収量の新品種への転換も進行中
  • ビッチャオ協同組合が開発したハニープロセスが国際市場で評価される

荒れ山の緑化事業から始まった産地

ベトナムはブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー生産国で、生産量の約95%をロブスタ種が占めます(USDA FAS推計)。中央高地ダクラク省を中心とするロブスタ農園が生んだ濃厚な苦味とカフェ・スア・ダ文化は、ベトナム ブオンマトゥオットの記事で紹介した通りです。

その例外がラムドン省と、この記事で扱う北西部ソンラ省です。ソンラのアラビカ栽培は1994年、荒れた山地の緑化と貧困削減を目的とした政府の農業振興事業として、ソンラ市フアラ地区で始まりました。当時のソンラ省北西部の山岳地域は換金作物に乏しく、コーヒーは焼畑や貧しい土地を蘇らせる代替作物として導入されたのです。

それから30年余りで、ソンラ省の栽培面積は約2万haへと拡大し、マイソン郡・トゥアンチャウ郡・ソンラ市フアラ地区を中心に、ベトナム ダラットを擁するラムドン省と並ぶベトナム二大アラビカ産地の一つに数えられるまでになりました。標高700〜1,200mの山岳地帯は、ロブスタが主体のベトナムでは珍しい冷涼な環境を生み出しています。


産地の特徴

代表的な農園

  • ビッチャオ・コーヒー協同組合Bich Thao Coffee Cooperative
    📍 ベトナム・ソンラ市フアラ地区⛰️ 約900〜1,200m

    約300戸・計約1,000haの契約農家を抱える協同組合。自社開発のパルパー(2016年導入)と米国・ドイツの技術指導によりハニープロセスを確立し、通常のウォッシュド豆(1kgあたり1.8〜2米ドル程度)に対しハニー豆を1kgあたり約22米ドルで取引。2022年に国家OCOP五つ星認証を取得し、米国・ドイツ・日本・英国・フランスなど20カ国へ年間約6,000トンを輸出する

  • フックシン ソンラPhuc Sinh Son La Corporation
    📍 ベトナム・ソンラ省マイソン郡チエンムン村

    ベトナム大手コーヒー企業フックシンのソンラ拠点。地域の協同組合・農家と連携し、有機農法や生物多様性保全に配慮した栽培・精製を進め、欧州・日本向けの品質基準に対応する

  • マイソン郡・トゥアンチャウ郡の小規模農家
    📍 ベトナム・ソンラ省⛰️ 700〜1,200m

    ソンラ省の栽培面積約2万haのうち、マイソン郡・トゥアンチャウ郡・ソンラ市が主要な栽培地区。玄武岩質の土壌と山岳地帯特有の寒暖差が、甘みとボディのバランスに寄与する


精製方法とハニープロセスの革新

精製方法

💧

ウォッシュド

Washed / Wet Process

1
収穫
2
果肉除去
3
水洗い・発酵
4
乾燥
5
脱穀
ボディ
2/5
クリアさ
5/5
発酵感
2/5

豆本来の味が際立つクリーンカップ。明るい酸味とクリアな風味が特徴

ソンラでは伝統的にウォッシュド精製が主流ですが、ビッチャオ協同組合は2016年、米国・ドイツの技術者の指導を受けて自社製パルパーを開発し、ハニープロセスを導入しました。果肉を除去した後、粘液質(ミューシレージ)を一部残したまま乾燥させることで、通常のウォッシュド豆より甘みと厚みのあるカップに仕上がります。この付加価値化により、ハニー豆は通常のウォッシュド豆の10倍以上の価格で取引されるようになりました。副産物のカスカラ(コーヒーチェリーの果皮)も国内で1kgあたり1.8万〜2万円相当、フランス市場では最大8万円相当で取引されるなど、余すところなく商品化が進んでいます。


フレーバーチャート

フレーバーチャート

酸味苦味甘みコク香り
酸味
苦味
甘み
コク
香り

おすすめの焙煎度

おすすめの焙煎度

ライト焙煎深煎り

ミディアム ロースト

カラメルやはちみつを思わせる甘みを引き出すため、浅煎り〜中煎りより中煎り〜中深煎りが向いています。


ポジショニングマップ

ポジショニングマップ

苦味酸味コク軽いベトナム ソンラベトナム ダラットベトナム ブオンマトゥオット(ロブスタ)ブラジル サントスNo.2グアテマラ アンティグアエチオピア イルガチェフェ

淹れ方のポイント

  • お湯の温度:88〜92℃
  • 挽き目:中挽き
  • 抽出方法:ペーパードリップ推奨
  • 豆の量:13〜15g / 200ml(13g → 酸味と輪郭がやや際立つ、15g → カラメル系の甘みとボディを強調)

📏 基準のエビデンス

  • 豆の量:SCA(米スペシャルティコーヒー協会)Golden Cup基準 1:18(200mlで11g)/日本式 1:14〜1:16(200mlで12〜14g)。本ブログは焙煎度別に世界寄りの中間値を採用
  • お湯の温度:SCA基準 90〜96℃(93℃±3)/日本式は焙煎度に応じて低めを好む(特に深煎り82〜85℃)。本ブログは焙煎度別に世界+日本式の折衷を採用
  • 出典:SCA Coffee Standards / Specialty Coffee Association

よくある質問

ベトナムのコーヒーはロブスタばかりではないのですか?
生産量の約95%はロブスタ種ですが、北西部のソンラ省と中南部のラムドン省はアラビカ栽培に特化しています。ソンラ省は1994年の緑化・貧困対策事業をきっかけに栽培が広がり、現在は約2万haの規模を持つベトナム最大級のアラビカ産地の一つです
ソンラのアラビカはダラットとどう違いますか?
ソンラは標高700〜1,200mの山岳地帯で、カラメルやはちみつを思わせる甘みとバランスの良い酸味、しっかりしたボディが特徴です。ダラット(標高1,450〜1,650m)はより穏やかな酸味とベリー系の軽やかな味わいで、同じベトナム産アラビカでも個性が異なります
ハニープロセスとは何ですか?
果肉を除去した後、粘液質(ミューシレージ)を一部残したまま乾燥させる精製方法です。ソンラのビッチャオ協同組合は米国・ドイツの技術指導を受けて2016年から自社製パルパーでハニープロセスを導入し、通常のウォッシュド豆(1kgあたり1.8〜2米ドル程度)に対しハニー豆は1kgあたり約22米ドルで取引されるなど付加価値化に成功しました

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