コーヒーに発がん性はあるのか|IARCの評価の変遷(1991年と2016年)と「65℃を超える熱い飲み物」の意味

コーヒーそのものは「分類できない」、2A(おそらく発がん性がある)とされたのは65℃を超える熱い飲み物

WHOの国際がん研究機関(IARC)は、1991年に「発がん性があるかもしれない(2B)」としたコーヒーを、2016年の再評価で「分類できない(3)」に改めました。同じ評価で2Aとされたのは、飲み物の種類を問わず65℃を超える温度で飲むことで、コーヒーも65℃を超えれば当てはまります。評価の中身、温度の定義、アクリルアミドの分類を一次資料で整理します


この記事の要点

  • IARCは1991年(モノグラフ第51巻)にコーヒーを「発がん性があるかもしれない(グループ2B)」とした。根拠は膀胱がんとの限られた証拠だった
  • 2016年の再評価(第116巻)で、コーヒーを飲むことは「発がん性を分類できない(グループ3)」に改められた。1000以上の研究を検討している
  • 同じ評価で「おそらく発がん性がある(グループ2A)」とされたのは、65℃を超える非常に熱い飲み物を飲むこと(食道がん)で、コーヒーという飲み物そのものではない。飲み物の種類は問わないので、コーヒーも65℃を超える温度で飲めば当てはまる
  • IARCの分類は「がんの原因になりうるか」の証拠の強さを示すもので、どれくらい危ないか(リスクの大きさ)を示すものではない
  • コーヒーに含まれるアクリルアミドという物質は、別の評価でグループ2Aとされている。物質の分類と飲み物の分類は別の話である

結論から書くと、2016年の再評価(2018年刊のモノグラフ第116巻)でのIARC(WHOの国際がん研究機関)の評価では、コーヒーを飲むことは「発がん性を分類できない(グループ3)」です。 1991年には「発がん性があるかもしれない(グループ2B)」とされていましたが、2016年の再評価で改められました。同じ2016年の評価で「おそらく発がん性がある(グループ2A)」とされたのは、コーヒーという飲み物ではなく、65℃を超える非常に熱い飲み物を飲むこと(食道がん)です。飲み物の種類は問わないため、コーヒーも65℃を超える温度で飲めばこれに当たります。

「コーヒーは発がん性がある」「熱い飲み物はがんになる」という話は、この2つの評価が混ざって伝わりがちです。この記事では、IARCのプレスリリース・Q&A・モノグラフ本文と、日本の公的機関の資料を開いて、何がいつどう評価されたのかを順に整理します。この記事は医療の助言ではなく、公表された評価の整理です。体調や持病に関わる判断は医師に相談してください。

IARCの分類は「危なさの大きさ」ではない

最初に押さえておきたいのは、IARCの分類が何を表しているかです。IARCのプレスリリース(2016年6月15日、第244号)と第116巻のQ&Aは、モノグラフの分類は「がんの原因になりうるか(cancer hazard)」を現在の証拠から分類するもので、その物質にさらされたときにどれくらいリスクがあるかを示すものではないと説明しています。例として、たばこの喫煙はグループ1(発がん性がある)だが、その分類は1本吸うごとにリスクがどれだけ上がるかを示さない、と書かれています。

つまり「グループ2A」と「グループ3」の違いは、がんとの関係を示す証拠がどれだけそろっているかの違いであって、2Aのものが3のものより何倍危ない、という意味ではありません。

1991年:コーヒーは「2B」だった

IARCのQ&Aによると、コーヒーを飲むことは1991年(モノグラフ第51巻)に評価され、グループ2B(発がん性があるかもしれない)に分類されました。根拠は、コーヒーが膀胱がんの原因になるという疫学研究の「限られた証拠」です。Q&Aは「限られた証拠」を、関連は観察されたが、偶然・偏り・交絡(ほかの要因の影響)を除けなかった状態と説明しています。

同じ1991年の評価では、乳房と大腸のがんについては発がん性がないことを示唆する証拠があり、ほかのがんについては証拠が不十分で、動物実験の証拠も不十分とされていました。

2016年:再評価で「3」に

2016年5月24〜31日、23人の科学者からなる作業部会がフランスのリヨンでコーヒー・マテ茶・非常に熱い飲み物を評価しました(作業部会の会期はモノグラフ第116巻の扉、人数はプレスリリースによる)。評価の要約は同年6月に The Lancet Oncology に掲載され、詳しい内容は2018年刊のモノグラフ第116巻にまとめられています。

プレスリリースによると、作業部会は人と動物の1000を超える研究を検討し、コーヒーを飲むことは「人に対する発がん性を分類できない」グループ3と結論しました。Q&Aでは、関連する疫学研究は500件近くで、20種類を超えるがんにわたるとしています。

モノグラフ第116巻の「6. 評価」の節には、次のように書かれています。

  • 人での証拠:コーヒーを飲むことの発がん性について、証拠は不十分(inadequate)
  • すい臓、肝臓、乳房(女性)、子宮体部、前立腺のがんについては、発がん性がないことを示唆する証拠がある
  • 肝臓と子宮体部のがんでは、コーヒーを飲むことと逆の関連(コーヒーを飲む人のほうががんが少ないという関連)が観察された
  • 動物実験での証拠:不十分
  • 総合評価:グループ3

プレスリリースとQ&Aは、20を超えるほかのがんについては、結論を出すには証拠が足りなかったとしています。

なぜ「格下げ」になったのか

Q&Aは、1991年に膀胱がんとの関連を示した初期の研究の多くが、喫煙の影響を十分に考慮していなかったことを最も大きな理由に挙げています。喫煙は膀胱がんの大きな危険因子で、コーヒーをよく飲むこととも強く結びつきうるためです。その後に出た質の高い研究の大半では、コーヒーと膀胱がんの一貫した関連は見られず、膀胱がんの原因になるかどうかは判断できなくなった、と書かれています。

「3」は安全という意味ではない

IARCのQ&Aは、グループ3は安全が証明されたという意味ではないと明記しています。既存のデータでは、がんの原因になるかどうかを結論できないという意味です。そのうえで、乳房・前立腺・すい臓のがんについてはコーヒーが原因になる可能性は低いと結論でき、肝臓と子宮体部のがんでは観察研究でリスクの低下との関連が見られた、としています。

豆の種類や淹れ方の違いは分かっていない

Q&Aは、コーヒーの化学的な性質は、もとになるコーヒーノキの種類、精製や焙煎、淹れ方によって異なるとしたうえで、これまでの研究では、コーヒーの種類や淹れ方によるがんのリスクの一貫した違いは示されていないと書いています。また問8では、ほとんどの研究がコーヒーの種類や淹れ方を分けて調べておらず、特定の種類について結論を出すだけの情報がないとしています。品種・焙煎度・インスタントかドリップかで発がん性が違う、という話は、この評価からは言えません。焙煎の段階そのものについてはコーヒーの焙煎(ロースト)解説、インスタントとの製法の違いはインスタントコーヒーとレギュラーコーヒーの違いで整理しています。

「65℃を超える熱い飲み物」は2A

同じ2016年の評価で、65℃を超える非常に熱い飲み物を飲むことは「おそらく発がん性がある」グループ2Aとされました。モノグラフ第116巻の評価の節は、人での証拠を「限られた証拠」とし、非常に熱い飲み物と食道の扁平上皮がんとの正の関連が観察されたとしています。動物実験では、65℃以上の熱湯の発がん性について限られた証拠があるとされています。

プレスリリースによると、根拠になった研究は、中国、イラン、トルコ、南米など、紅茶やマテ茶を伝統的に非常に熱い状態(約70℃)で飲む地域のもので、飲む温度が高いほど食道がんのリスクが上がっていました。IARCの所長(当時)は、飲み物そのものではなく温度が原因とみられる、とコメントしています。

「65℃」の定義

温度の書き方は資料によって少し違います。

資料 書き方
プレスリリース(脚注2) 65℃を超える温度で飲む飲み物(above 65 °C)
モノグラフ第116巻(マテ茶・熱い飲み物の章)6.3 総合評価 65℃を超える温度で非常に熱い飲み物を飲むことはグループ2A(above 65 °C)
モノグラフ第116巻(マテ茶・熱い飲み物の章)6.2 動物実験 65℃以上の熱湯(at 65 °C or above)
Q&A(問21) 65℃以上(65 °C or above)

Q&Aは、この定義が動物実験から来ていて、食道がんの多い地域で非常に熱い飲み物の温度が65℃を超えていたという調査にも支えられている、と説明しています。そのうえで、世界のほとんどの地域で紅茶やコーヒーを飲む一般的な温度は65℃より低いとしています。

この記事で言えないこと

IARC自身が、ふだん家庭や店で飲むコーヒーの温度を測ったわけではありません。ただしモノグラフ第116巻(マテ茶・熱い飲み物の章)1.1.1は、既存の調査として、熱い飲み物は71〜85℃で出され、飲むときはそれより低いおおむね50〜70℃であること、米国で300人に熱いコーヒーとぬるいコーヒーを混ぜて好みの温度にしてもらった調査(Lee & O’Mahony, 2002)では平均60℃・幅37〜88℃だったことを紹介しています。50〜70℃という幅は65℃をまたいでいます。モノグラフも、飲む温度の選び方は人によって大きく違いうるとしています。淹れるときの湯温(コーヒーを淹れる湯温は何度がベストか)と、口に入るときの温度も別のものです。この記事では、自分が飲んでいるコーヒーが何℃かを当てはめることはせず、「IARCが2Aとしたのは65℃を超える飲み物を飲むこと」という評価の範囲だけを書きます。食道がんのうち、熱い飲み物と関係する割合も、プレスリリースでは「分かっていない」とされています。

アクリルアミドの「2A」は物質の分類

コーヒーの話でよく出てくるもう1つの「2A」が、アクリルアミドです。厚生労働省の「加工食品中のアクリルアミドに関するQ&A」によると、アクリルアミドは炭水化物を多く含む食品を高温(120℃以上)で加熱調理すると生じる物質で、IARCではグループ2A(人に対しておそらく発がん性がある)に分類されています。人での証拠は不十分だが、動物実験で十分な証拠があることによる分類です。

同じQ&Aによると、食品安全委員会は2016年4月の評価で、発がん以外の影響のリスクは極めて低いとする一方、発がんについては人での健康影響は明確でないものの懸念がないとは言えず、合理的に達成可能な範囲で低減に努める必要があるとしています。食品安全委員会の推計による日本人の摂取源の割合では、飲料(コーヒー、緑茶・ウーロン茶、麦茶など)が17%で、高温調理した野菜の56%に次ぐ割合でした。Q&Aは、特定の食品を避ける偏った食生活はかえって栄養不足などの心配があるとして勧めていません。

ここで区別しておきたいのは、アクリルアミドの2Aは「物質」の分類で、コーヒーの3は「コーヒーを飲むこと」という飲み物全体の分類だという点です。IARCのQ&Aによると、コーヒーの評価で最も重視されたのは、ふだんのコーヒーの飲み方を答えた人々を長年追跡したコホート研究でした。ペーパーフィルターの漂白とダイオキシンの話は別の問題で、コーヒーのペーパーフィルター、白と茶色どちらがいいかで扱っています。

日本のコホート研究では

国立がん研究センターの多目的コホート研究(JPHC)のパンフレット(2016年12月)は、食品や栄養素の摂取と病気の関連の結果を表にしています。

  • 多く飲む群でリスクが低いという結果:浸潤性結腸がん(女性)、肝がん、子宮体がん、脳腫瘍、脳卒中、糖尿病、全死亡
  • 多く飲む群でリスクが高いという結果:膀胱がん(非喫煙・過去喫煙の男性)

同じパンフレットは、食品や栄養素とがんの関連はまだよく分かっていない部分が大きく、人を対象にした疫学研究のエビデンスの1つとしてとらえ、ほかの研究と合わせて総合的に判断する必要があると書いています。観察研究で見られた関連は、コーヒーが病気を防ぐ・起こすという因果を示したものではありません。

確認できたこと・確認できなかったこと

項目 状態 資料
1991年にコーヒーはグループ2B(根拠は膀胱がんの限られた証拠) 確認済み IARC Q&A 問5
2016年にコーヒーはグループ3、1000以上の研究を検討 確認済み プレスリリース・刊行ページ(1000以上)、モノグラフ第116巻(コーヒーの章)6.3(グループ3)
肝臓・子宮体部のがんで逆の関連 確認済み モノグラフ第116巻(コーヒーの章)6.1、Q&A
65℃を超える非常に熱い飲み物はグループ2A(食道がん) 確認済み プレスリリース、モノグラフ第116巻(マテ茶・熱い飲み物の章)6.3
世界のほとんどの地域でコーヒーを飲む一般的な温度は65℃未満 IARCの記述として確認 Q&A 問21
熱い飲み物を飲む温度はおおむね50〜70℃、米国の調査でコーヒーの好みの温度は平均60℃(37〜88℃) モノグラフが紹介する既存の調査として確認(IARC自身の測定ではない) モノグラフ第116巻(マテ茶・熱い飲み物の章)1.1.1
アクリルアミドはグループ2A、食品安全委員会の2016年4月の評価 確認済み(評価書そのものは未読、厚労省Q&Aによる) 厚生労働省Q&A
JPHCでの肝がん等の関連の大きさ(数値) 未確認(パンフレットの表で関連の向きのみ確認) JPHCパンフレット
読者が飲む1杯のコーヒーの温度 当てはめない(この記事では扱わない) —
豆の種類・焙煎・淹れ方による発がん性の違い 研究で一貫した違いは示されていない Q&A 問8・問9

まとめ

IARCは、コーヒーを飲むことを1991年に「2B」、2016年に「3」と評価しました。2016年の評価では1000を超える研究が検討されました。初期の研究の多くが喫煙の影響を十分に考慮しておらず、その後の質の高い研究では一貫した関連が見られなかったため、膀胱がんとの証拠は弱まりました。肝臓と子宮体部のがんでは逆の関連が見られています。同じ評価で「2A」とされたのは、65℃を超える非常に熱い飲み物を飲むことで、根拠になった研究には、紅茶やマテ茶を伝統的に約70℃で飲む地域のものが含まれます。アクリルアミドの「2A」は物質の分類で、コーヒーという飲み物の分類とは別です。IARCの分類は証拠の強さの分類で、リスクの大きさを示すものではありません。1日に飲む量やカフェインの目安はカフェインとコーヒーの健康な付き合い方で整理しています。


目的別に次に読む

参考文献・情報ソース

よくある質問

コーヒーは発がん性があると言われていたのは本当ですか
本当です。IARCは1991年のモノグラフ第51巻で、コーヒーを飲むことを「発がん性があるかもしれない(グループ2B)」に分類していました。根拠は膀胱がんとの関連を示す限られた証拠でした。2016年の再評価では、喫煙の影響を十分に考慮していない初期の研究が多かったことなどから、この関連の証拠は弱まったとされ、「分類できない(グループ3)」に改められています
グループ3は「安全」という意味ですか
いいえ。IARCのQ&Aは、グループ3は安全が証明されたという意味ではなく、がんの原因になるかどうかを結論できるだけのデータがないという意味だと説明しています。そのうえで、すい臓・乳房・前立腺のがんについてはコーヒーが原因になる可能性は低いと結論でき、肝臓と子宮体部のがんでは観察研究でリスクの低下との関連が見られたとしています
熱いコーヒーは食道がんの原因になりますか
コーヒーでも、65℃を超える温度で飲めば、IARCが「おそらく発がん性がある(グループ2A)」とした「非常に熱い飲み物」に当たります。2Aの対象は飲み物の種類ではなく、65℃を超える温度で飲むことです(食道がん)。根拠になった研究には、中国・イラン・トルコ・南米など、紅茶やマテ茶を伝統的に約70℃で飲む地域のものが含まれます。IARCのQ&Aは、世界のほとんどの地域で紅茶やコーヒーを飲む一般的な温度は65℃より低いとしています。ご自身が飲む温度を測った研究ではないため、この記事では個別の当てはめはしません
コーヒーに含まれるアクリルアミドは大丈夫ですか
アクリルアミドはIARCのグループ2A(おそらく発がん性がある)に分類されている物質です。厚生労働省のQ&Aによると、食品安全委員会は2016年4月の評価で、発がん以外の影響のリスクは極めて低い一方、発がんについては懸念がないとは言えず、合理的に達成可能な範囲で低減に努めるべきとしています。同じQ&Aは、特定の食品を避ける偏った食生活は勧められないとしています

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