
ホンジュラス エルパライソ
ニカラグア国境、内戦の傷を癒したコーヒーの丘
ホンジュラス東部エルパライソ県、標高1,000〜1,600m。ダンリを中心に自治体別で全国1位の生産量へ成長し、さび病耐性のパライネマ種がパッションフルーツと花の香りを生む。ニカラグア国境の内戦地帯という歴史を抱えた産地です
この記事の要点
- 産地はホンジュラス東部、ニカラグアと国境を接するエルパライソ県(標高1,000〜1,600m)
- ダンリ市は自治体別コーヒー生産量で全国1位(2021/22年度32万3,209.94キンタル)
- 1980年代はニカラグア内戦のコントラ勢力の主要拠点で、定住農業への投資が長く滞った産地
- IHCAFEが1980年代に育成したさび病耐性品種パライネマの普及が進む
- パッションフルーツ・ジャスミン・ライムの明るい酸とクリーミーな口当たり
産地情報
| 産地 | ホンジュラス・エルパライソ県/ダンリ/トロヘス/テウパセンティ |
|---|---|
| 品種 | パライネマ種・レンピラ種・IHCAFE90種・カトゥアイ種・カトゥーラ種 |
| 標高 | 1,000〜1,600m |
| 味わい | パッションフルーツ・ジャスミン・ライム・ハチミツ・クリーミーな口当たり |
品種情報
品種:パライネマ種を中心に、レンピラ種・IHCAFE90種・カトゥアイ種
パライネマは、ホンジュラス国立コーヒー研究所(IHCAFE)が1980年代のさび病危機を受けて選抜し、2004年に正式リリースした品種。コスタリカで育成されたサルチモール系統T5296(ティモール・ハイブリッド × ヴィジャ・サルチ)を母体とし、さび病と根こぶ線虫に耐性を持つ。小型で密植でき、大粒で細長い豆を多収する。エルパライソではダンリを中心にこのパライネマの栽培が広がり、2017年にはダンリの農園がカップ・オブ・エクセレンスで優勝した
- IHCAFE公式6産地ブランドの一つ「エル・パライソ」
- ニカラグア国境に接し、1980年代内戦の最前線だった県
- ダンリ市自治体別コーヒー生産量で全国1位(2021/22年度)
- 収穫期12〜3月、ウォッシュド精製が中心
エルパライソコーヒーとは
エルパライソ県はホンジュラス東部、ニカラグアと国境を接する県です。県都はユスカランですが、コーヒーの中心は国境の町ダンリで、ラス・マノス国境検問所からほど近い標高1,000〜1,600mの丘陵地に農園が広がります。IHCAFE(ホンジュラス国立コーヒー研究所、1970年設立)がブランド化した公式6産地(コパン・オパラカ・モンテシージョス・コマヤグア・エル・パライソ・アガルタ)の一つで、収穫期は12〜3月です。
生産規模は国内最大級で、ダンリ市は2021/22年度に32万3,209.94キンタルを出荷し、自治体別のコーヒー生産量で全国1位でした。カップはフローラルでシトラス、パッションフルーツやマンゴーを思わせるトロピカルな酸が持ち味です。
姉妹記事のホンジュラス マルカラは中米初の原産地呼称を取得したモンテシージョス地区、ホンジュラス コパンはグアテマラ国境の冷涼な陰樹栽培産地を扱っています。同じ国でも、エルパライソは生産量の大きさとパライネマ種の普及という点で異なる立ち位置にあります。
数字で見るエルパライソとホンジュラスのコーヒー
| 指標 | 数値 | 年次 | 出典 |
|---|---|---|---|
| ホンジュラス全国生産量 | 553万袋(60kg換算、前年比+6.3%) | 2025/26年度 | USDA FAS |
| 全国収穫面積 | 31万ha(作付面積は36万ha) | 2025/26年度 | USDA FAS |
| 主要輸出先 | 米国34%・ドイツ23%・ベルギー13% | 2025年 | USDA FAS |
| 全国さび病感染率 | 8.44% | 2026年3月 | USDA FAS |
| エルパライソ県生産量 | 110万515キンタル(1キンタル=46kg、オロ換算) | 2016/17年度 | IHCAFE/El Heraldo |
| 上位5県の全国シェア | 67.9%(コマヤグア・レンピラ・コパン・エルパライソ・サンタバルバラ) | 2016/17年度 | IHCAFE/El Heraldo |
| ダンリ市生産量(自治体別で全国1位) | 32万3,209.94キンタル | 2021/22年度 | IHCAFE/El Heraldo |
| エルパライソ県生産量 | 70万1,783.80キンタル | 2021/22年度 | El Heraldo |
| カップ・オブ・エクセレンス最高落札額(フィンカ・エル・ラウレル、91.81点) | 1ポンド124.50米ドル | 2017年 | Alliance for Coffee Excellence |
| IHCAFE設立 | 1970年 | — | Perfect Daily Grind |
数量単位はホンジュラス公式統計にならい「キンタル(quintal oro=46kgの生豆)」で示しています。全国生産量のみ国際比較で一般的な60kg袋換算です。年度は各出典が公表した最新の確定値を使っており、県別・自治体別の直近確定値(2016/17・2021/22)と全国推計(2025/26)で参照年が異なります。
内戦の最前線から産地へ
エルパライソ県のコーヒー史は、農業技術より先に地政学で語られてきました。1980年代、県はニカラグア内戦の余波を最も強く受けた地域です。ラス・マノス国境検問所を挟んで、反サンディニスタ武装勢力(コントラ)の主要キャンプが県内、とりわけ1987年にダンリから分離してできたトロヘス自治体の周辺に置かれました。アレナレスやヤマレスなど複数の集落が丸ごと退去を強いられ、ニカラグアからの難民も流入しています。国境地帯の不安定さは、長く定住農業への投資を妨げました。
停戦後、コーヒーは国境地帯の小農家にとって数少ない現金収入の柱になりました。トロヘスは今やダンリに次ぐ県内2位の産地に育ち、2016/17年度には約18万9,000キンタルを出荷しています。IHCAFEはエルパライソを「発展途上の産地(región menos desarrollada)」と位置づけ、トレーサビリティ整備とマイクロロット生産の技術支援を集中的に投下してきました。国境を越えたニカラグア側のニカラグア ヌエバセゴビアも同じディピルト系の山塊に属し、内戦期には同様に前線となった産地です。
さび病危機とパライネマ種
2012/13年のさび病(ロヤ)流行で、ホンジュラスの被害は中米最大級でした。推定損失は約6億米ドル、およそ10万人が職を失ったとされます。IHCAFEはさび病耐性のレンピラ種の普及で応じ、2017年には国内生産の50〜60%をレンピラが占めるまでになりました。ところが2017年1月、そのレンピラにさび病感染が報告されます。IHCAFEは全国感染率が6%を超えると警報を出す監視システムを導入して対応にあたっています(2026年3月時点の全国感染率は8.44%)。
エルパライソではより古い、1980年代にIHCAFEが育成したパライネマ種が主力です。2004年のリリース以降さび病耐性を保ち、大粒で品質が安定していることから、ダンリ周辺で作付けが広がりました。2017年、ダンリ市ラス・デリシアス集落のオスカル・ラミレス氏が、フィンカ・エル・ラウレル(標高約1,400m)のパライネマでカップ・オブ・エクセレンス優勝(91.81点)を果たし、1ポンド124.50米ドルという当時のホンジュラス史上最高値で落札されました。青リンゴ、ジャスミン、ハチミツ、レモン、ピーチのカップは、この産地の到達点を示す1つの基準になっています。
近隣産地との比較
| 産地 | 国 | 標高 | 主な品種 | カップの傾向 |
|---|---|---|---|---|
| エルパライソ(ダンリ) | ホンジュラス | 1,000〜1,600m | パライネマ・レンピラ・IHCAFE90 | パッションフルーツ・ジャスミン・クリーミー |
| ヌエバセゴビア | ニカラグア | 1,150〜1,800m | カトゥーラ・マラカトゥーラ | シトラス・レッドフルーツ・明るい酸 |
| コパン | ホンジュラス | 1,000〜1,700m | ブルボン・カトゥーラ・レンピラ | ミルクチョコ・グレープフルーツ・厚いボディ |
| マルカラ | ホンジュラス | 1,200〜1,600m | カトゥーラ・パカス・ブルボン | キャラメル・柑橘・ベルベットのボディ |
国境を挟んで隣り合うヌエバセゴビアと比べると、エルパライソは標高がやや低いぶん酸のとがりが穏やかで、トロピカルフルーツの甘い酸とクリーミーな口当たりに寄ります。同じホンジュラスでも、冷涼なコパンのチョコレート寄りのボディ、マルカラのキャラメルとベルベット感に対し、エルパライソは香りの華やかさで個性を出しています。
代表的な農園・協同組合
代表的な農園
- フィンカ・エル・ラウレル(オスカル・ラミレス)Finca El Laurel — Óscar Daniel Ramírez
2017年カップ・オブ・エクセレンスでパライネマ種のロットが優勝(91.81点)、1ポンド124.50米ドルという当時のホンジュラス史上最高値で落札。青リンゴ・ジャスミン・ハチミツ・レモン・ピーチのカップで知られる小規模農園
- カフェウノ(協同組合連合)CAFÉUNO
11の生産者組織・158名の生産者が加盟する「協同組合の協同組合」。パライネマ種を主体に、ダンリ周辺の小農家ロットをまとめて輸出する。トレーサビリティとマイクロロットの品質管理に取り組む
- カフェス・エスペシアレス・エル・パライソ(CAFEEPSA)Cafés Especiales El Paraíso, S.A.
ダンリを拠点とするスペシャルティ輸出会社。県内の小農家ロットを集荷し、区画・生産者単位のトレーサビリティを付けて海外ロースターへ供給する
精製方法
精製方法
ウォッシュド
Washed / Wet Process
豆本来の味が際立つクリーンカップ。明るい酸味とクリアな風味が特徴
フレーバーチャート
おすすめの焙煎度
おすすめの焙煎度
ミディアム ロースト
ポジショニングマップ
ポジショニングマップ
淹れ方のポイント
- お湯の温度:88〜92℃
- 挽き目:中挽き
- 抽出方法:ペーパードリップ推奨
- 豆の量:11〜13g / 200ml(11g → パッションフルーツの明るい酸味、13g → ハチミツの甘みとクリーミーな口当たりを強調)
📏 基準のエビデンス
- 豆の量:SCA(米スペシャルティコーヒー協会)Golden Cup基準 1:18(200mlで11g)/日本式 1:14〜1:16(200mlで12〜14g)。本ブログは焙煎度別に世界寄りの中間値を採用
- お湯の温度:SCA基準 90〜96℃(93℃±3)/日本式は焙煎度に応じて低めを好む(特に深煎り82〜85℃)。本ブログは焙煎度別に世界+日本式の折衷を採用
- 出典:SCA Coffee Standards / Specialty Coffee Association
参考文献・情報ソース
- USDA FAS — Honduras: Coffee Annual(GAINレポート HO2025-0002)
- Daily Coffee News — Honduras Coffee Report: Production Rising to Highest Level in Years
- El Heraldo — Cinco departamentos producen el 67.9% del café de Honduras
- El Heraldo — Seis municipios tienen la mayor producción de café en Honduras
- Perfect Daily Grind — Introducing The 6 Coffee Regions of Honduras
- Alliance for Coffee Excellence — 91.81(Finca El Laurel, 2017 Honduras Cup of Excellence)
- World Coffee Research — Parainema
- Barista Magazine — Lempira Coffee Variety No Longer Resistant to Coffee Leaf Rust
- Plaza Pública — De Las Manos a Danlí, pasando por El Paraíso
- Mercanta The Coffee Hunters — Honduras
- SCA — Coffee Standards
よくある質問
- エルパライソのコーヒーはどんな味ですか?
- パッションフルーツやマンゴーを思わせるトロピカルな酸味に、ジャスミンのフローラルな香りとハチミツの甘み、クリーミーな口当たりが重なります。ウォッシュド精製によるクリーンな後味が特徴です。
- エルパライソはホンジュラスのどのあたりですか?
- ホンジュラス東部、ニカラグアと国境を接する県です。県都はユスカラン、コーヒーの中心地は国境の町ダンリで、ラス・マノス国境検問所からほど近い高地に農園が広がります。
コーヒーをもっと知る
クリーンな酸味が特徴のウォッシュド。ナチュラル系のフルーティーさと、あなたはどちらがお好みですか?
産地の映像はYouTube Shorts、書き手の考えはnoteでも発信しています
コメント
コメントを書く